戸栗美術館
渋谷区松濤にある戸栗美術館
きっかけは、渋谷区松濤にある戸栗美術館に立ち寄ったことでした。
展示室で見た鍋島焼があまりに綺麗で、「これほど美しいものが、今の時代もどこかで作り続けられているのだろうか?」という素朴な疑問が湧いたのが始まりです。
その答えを確かめたくて、昨年10月に佐賀県の大川内山(おおかわちやま)を初めて訪ねました。有田とはまた違う、この地ならではの歴史や現場の熱量を肌で感じ、「自分にできることはないか」と考えるようになりました。
10月の決意から、1月の再訪へ
産地が抱える課題を自分なりに調べ、「何とかしたい」という思いから12月に開発をスタートしました。ITを本業とする自分にできる形として、工芸のための記録プラットフォーム「KOGEIAI Pro」を構築していきました。
時を同じくして、昨年末に行われた「鍋島藩窯開窯350周年」のクラウドファンディングにも支援をさせていただきました。単なる外からの提案者ではなく、一人のファンとして産地を応援したいという気持ちからでした。
そして今年1月。実際にシステムが動作するデモを見せられる状態までこぎつけ、それを携えて再び大川内山を訪れました。
大川内山
大川内山の景色
伝統の「今」に触れた、産業会館の展示
伊万里・有田焼伝統産業会館
巒山窯の作品を使ったテーブルウェアの展示(伊万里・有田焼伝統産業会館)
滞在中、大川内山の入り口にある伊万里・有田焼伝統産業会館に立ち寄りました。
リニューアルされた館内には、各窯元の歩みを記した紹介文とともに、それぞれの代表的な作品が並んでいます。
どの作品も非常に素晴らしく、個性的で、洗練された技術を間近に感じることができ、深く感銘を受けました。これほどの高い技術が、今も各窯元で守り抜かれている。現代の食卓での使い方も丁寧に提案されており、今の産地が持つ力強い勢いを感じる展示でした。
100年後を見据えた、リーダーの熱意
虎仙窯の代表の川副さん
虎仙窯の代表を務める川副さん
産地を支えるリーダーとしての公務をすべて終えたあと、夜の工房でようやく一人の作家に戻り、静かに土と向き合う。
そんな彼の「100年後を見据えた熱意」に触れ、私がITの立場で貢献できることは何かを改めて考えました。
100年後にこの価値を届けるためには、「その作品の価値を証明すること」、そして「その価値を記録として残すこと」。この二つが欠かせません。創作や産地のための活動を妨げない形で、この「証明」と「記録」の仕組みを整えたい。その思いが、より一層強くなりました。
KOGEIAI Proが目指すもの
第一に、顧客(手にする人)のため
「本物」である安心感と共に、作り手の物語を楽しみ、末長く大切に使い続けてもらう。
第二に、生産者(窯元)のため
記録の手間を最小限に抑えつつ、その技術と情熱の価値を正しく守り、顧客とのつながりを断絶しない。
第三に、学芸員(デジタルアーカイブ)のため
そもそも私達がこの世界に惹かれたきっかけは、美術館で過去の作品と出会い、「その背景をもっと知りたい」と思ったことでした。だからこそ、今日作られたものを、100年後の研究者にとっても正確な歴史資料として残すこと。これは、私達にとって欠かせない視点です。
例えば、今回のクラウドファンディングの返礼品であるお皿。手元に届くその一皿に、KOGEIAI Proを通じて「いつ、誰が、どんな想いで作ったか」という証明と記録を添えることができれば、手にする方の喜びもより深まるのではないか。そんな未来を形にしたいと考えています。
ぜひ、大川内山へ
ろくろ回し体験
ろくろ回しの体験中
今回の旅では、虎仙窯の代表でもある川副さんの指導のもと、ろくろ回しの体験をさせていただきました。
土に触れ、器がかたちになっていく過程を体験することで、鍋島焼が培ってきた技と時間の重みを、あらためて実感します。
また今回の旅では、畑萬陶苑での工房見学や、巒山窯の山本夫妻との何気ない雑談を通じて、つくり手の方々の想いや、現場ならではの熱量にも触れることができました。
大川内山は、訪れるたびに新しい発見がある場所です。
この記事を読んで、一人でも多くの方が現地に足を運び、あの独特の静かで凛とした空気の中で、器を手に取ってもらえたらうれしいです。
左から虎仙窯、巒山窯、畑萬陶苑。同じ意匠の器であっても、色の出方や青磁の表情、釉薬の景色は一つひとつ微妙に異なります。
オンラインストアでは見当たらなかった作品も多く、現地にはWebには出品されていない魅力的な器が数多くありました。購入の際には、ほかにも在庫があれば奥から持ってきてくださり、その中から自分がいちばんしっくりくるものを選ばせてもらえます。
色味や質感のわずかな違いを実際に見比べながら選ぶ時間は、オンラインでは得られない、産地ならではの体験だと感じました。
虎仙窯のマグカップ
虎仙窯で購入したマグカップ
白磁に描かれた桜花文と青海波文のやわらかな表情が印象的で、手に取るたびに鍋島焼らしい上品さを感じます。
オンラインでは出会えなかった、現地ならではの一客です。
巒山窯のマグカップ
巒山窯で出会ったマグカップ
墨弾きによる線描が静かに浮かぶ緑の花文は、鍋島焼の伝統を感じさせつつ、やわらかな筆の表情が印象的です。
現地限定の一客で、在庫はこの一点のみでした。巒山窯では、こうした一点限りの作品が多く見られます。
畑萬陶苑のロックカップ
畑萬陶苑で購入した、モイストシリーズのロックカップ
しっとりとしたマットな質感と、淡くやわらかな青磁の色合いが印象的で、知人のために選びました。在庫を出していただき、青磁の色の違いを見比べて好みで選びました。

